「臨床工学技士」の免許取得及び仕事内容・なる方法について

「臨床工学技士」、映画や小説などでこの職業について耳にしたことがある人もいるかもしれません。

ここでは、臨床工学技士免許を取得し、実際に臨床工学技士として勤務するまでの道のりについて、解説していきます。

そもそも、「臨床工学技士」とは?

「臨床工学技士」は、医療に関する国家資格の1つであり、病院や医療機器メーカーで活躍する専門家です。Clinical Engineer(CE)や Medical Engineer(ME)と呼ばれ、近年、医療の現場においては必要不可欠な職業となってきています。

では、臨床工学技士とは、具体的にどんな仕事を担う人たちなのでしょうか?

臨床工学技士の仕事内容

臨床工学技士の仕事とはずばり、「 生命維持管理装置の操作、及び保守点検を行う」ことです。

医師の指示のもと、病院内のあらゆる医療機器の保守・点検、ときには操作を行い、患者さんの治療にあたる機械のスペシャリスト、それが臨床工学技士です。
故に彼らは「いのちのエンジニア」とも呼ばれるのです。

それではもう少し具体的に、彼らの仕事について見ていきましょう。

どんな機器を扱うのか?

臨床工学技士は、病院内における、放射線を使用する機器以外のほぼ全ての機械の保守点検を行います。

透析器、人工呼吸器、人工心肺装置、輸液ポンプ、シリンジポンプ、ペースメーカー、内視鏡、AED、その他様々な生体情報を監視するモニターなど、挙げれば枚挙にいとまがありません。

彼らは、それらの医療機器が、いざ医師や看護師が使用するとなったときに、滞りなくスムーズに使用できるよう、日々点検を行っているのです。

どんなところで働いているのか?

一口に病院内といっても、病院内にも様々な部署があります。
細かくは各々の病院によっても異なりますが、臨床工学技士が主に活躍するのは、
・透析室
・手術室
・集中治療室
・機器管理室
・内視鏡室
・高気圧酸素治療室
・心臓カテーテル室
・ペースメーカー外来
などです。

それぞれの部署で、扱う医療機器は違ってくるため、例えば「透析室専属の技士」というように、予め配置を決めてしまう病院もあれば、臨床工学技士全員に、全ての知識を有することを求め、ローテーションで勤務部署を変えていく病院もあります。

病院内における立場は?

病院は医師や看護師のみで回っているわけではありません。

レントゲン・CT・MRIなどを扱う診療放射線技師、血液や細菌検査・心電図や脳波などの検査を行う臨床検査技師、リハビリテーションを行う理学療法士・作業療法士が働いています。彼らは、「パラメディカル」とも呼ばれ、臨床工学技士もそのパラメディカルの一職種なのです。

近年、医療機器は益々高度で複雑になり、昔のように医師や看護師のみで管理することが難しくなってきました。また、患者さんの治療に当たる上で、チーム医療というものの重要性が非常に高まっています。

医師、看護師、そしてパラメディカルスタッフが、互いに対等に連携して治療やケアに当たることで、患者中心の医療を実現させることが、今後の医療現場では必要不可欠です。

臨床工学技士は、その一員として、チーム医療に貢献していくべき立場にあるのです。

どうやって臨床工学技士になるのか?養成校について

ではチーム医療の担い手の一人としての臨床工学技士になるためには、どうしたらいいのでしょうか。

まずは、国家試験に合格し、臨床工学技士免許を取得する必要があります。

この国家資格は、誰でも受けることができるわけではなく、 臨床工学技士養成校(大学、短期大学、専門学校)において厚生労働大臣の指定する科目を修得しなければなりません。

養成校

臨床工学技士の養成校へは、高校を卒業した者(大学に入学する資格をもつ者)が入学できます。そして養成校は、大きく5種類があります。

・大学
臨床工学科、医用生体工学科などの学科に入学し、4年かけて単位を修めます。

・短大
臨床工学科に入学します。就学期間は3年です。

・専門学校
臨床工学科、臨床工学技士科などに入学します。
大半の専門学校は3年制ですが、稀に4年制の専門学校もあります。

・専攻科
医療系国家資格養成所(看護師や、臨床検査技師など)を卒業、またはその単位を修得している場合、専攻科を1年で卒業することができます。

授業や実習内容

養成校では、どのような授業や実習が行われているのでしょうか。

臨床工学技士の国家試験の科目は、以下の通りです。

・医学概論(公衆衛生学、人の構造及び機能、病理学概論及び関係法規を含む)
・臨床医学総論(臨床生理学、臨床生化学、臨床免疫学及び臨床薬理学を含む)
・医用電気電子工学(情報処理工学を含む)
・医用機械工学
・生体物性材料工学
・生体機能代行装置学
・医用治療機器学
・生体計測装置学
・医用機器安全管理学

よって、授業や実習も、これらに則したものになります。実習の授業では、実際に医療機器を操作したり、保守点検なども行います。

また、必要単位として、病院実習というものがあり、一定期間実際に病院に通い、そこで働く臨床工学技士の方々から指導を受けつつ、現場を体験するのです。学校にはない臨床の現場の緊張感を体験し、実際の仕事を目にすることのできる貴重な機会です。

資格取得は果たして難しいか?

晴れて養成校を卒業し、必要単位を修得したとしても、国家資格に合格しなければ、臨床工学技士を名乗ることは出来ません。

例年、合格率にばらつきはあるものの、受験者全体の70%~80%が合格しています。

そして、臨床工学技士の国家試験は、6割以上解ければ、合格です。試験は計180問出題されるので、108問以上出来ていればいいという計算です。

養成校では、中学校や高校、その他多くの大学同様、中間試験や期末試験がそれぞれの学期で行われています。この試験で赤点を取れば、再試験となります。また、養成校の教師や講師の先生方は、生徒を合格させるプロフェッショナルです。

養成校で実施される試験一つ一つをしっかりクリアし、先生方の指導のもと国家試験対策をすれば、合格はさほど難しいものではありません。

それでは、国家試験合格のためのポイントを、もう少し細かく見ていきましょう。

ポイント1:授業はしっかり聞こう

眠い日もある、怠い日もある、ときにはスマートフォンでこっそりゲームをやりたい日もあるでしょう。

しかし、先生方は毎年試験の分析をしているプロフェッショナルです。そして、養成校の目標とは、生徒を人間的に成長させることでも、一人前の社会人に育て上げることでもなく、最後に待ち受ける国家試験に合格させることなのです。

試験に関係のないことは、授業ではやらないといっても過言ではありません。全てが国家試験に繋がっていると思って、集中して取り組みましょう。

ポイント2:過去から学ぶ

過去問を網羅することは非常に大切です。

ときには、全く同じ問題が出ることさえあります。どの養成校でも過去問を解くことを勧めるでしょう。

少なくとも過去5年分、欲を言えば過去10年分の過去問であれば満点を取れるくらいにしておくと、合格率はかなり上がると思います。

ポイント3:公式・数式・定理を暗記しよう

試験科目の中には、公式や数式、定理を使って解く問題もあります。それらの成り立ちを学習し、理解することはもちろん重要です。

しかし、どうやっても理解できない公式や数式は、必ず出てきます。その際は、とりあえず暗記しましょう。

問題を多く解いていくうちに理解できることもあれば、永遠に理解出来ないものもあると思います。しかし、公式や数式、定理を理解できなくても、それらを使うことができれば、試験問題は解けてしまうのです。

これは多少荒業ではありますが、最終手段として有効です。

臨床工学技士の就職活動

国家試験に合格し、国家資格を取得すれば、「臨床工学技士」として働くことができます。

しかし、試験が行われるのは最終年度の3月、社会人として働き始めるのは、翌4月です。

国家試験に合格したあと、急いで就職活動をするという手もありますが、基本的には「合格する」ことを前提に、就職活動を始める場合が多いです。

就職の時期になるとたくさんの求人が養成校に届きますので、その中から働きたい病院を見つけ、そこに見学にいきます。もちろん見学は必須ではありませんが、自分にあった職場を見つけ出す手がかりになるので、お勧めします。

試験内容は病院によって異なりますが、知識を問うような筆記試験はほとんどありません。なぜなら、国家試験に合格するだろうことが前提になっているので、そのレベルの知識は当前持っていると判断されるのです。

場合によっては、小論文を書かせる病院もありますが、大半は面接による試験になります。

ただし、例え内定を取れたとしても、その後に控える国家試験に落ちれば、内定は当然取り消しになるので、やはり国家試験対策を一番に考えた方がいいでしょう。

最後に 臨床工学技士に必要なこと

臨床工学技士に一番必要なことは、果たしてなんでしょうか。

豊富な知識、確実な手腕、手先の器用さ、向上心。

どれも非常に大切ですが、現場で働いてみて、より大切なものは、「根気」「優しさ」「鈍感さ」だと感じました。

臨床工学技士は、高齢の方と接する機会が非常に多いです。それは単純に、医療機器の助けを必要とするのは、若い人より高齢の方のほうが比較的多いというだけの話ですが、入院中の高齢の方の中には、認知症を患っている方も少なからずいらっしゃいます。

また、透析に携わる臨床工学技士は多いと思いますが、透析を必要とする方のほとんどが糖尿病を患っています。糖尿病の悪化にともない、手足がなかったり、盲目だったりします。また、厳しい食事制限により、ときには激しく感情的になる方もいらっしゃいます。比較的元気でも、足腰が痛み、ゆっくりと行動する方、耳が遠く聞き取りが難しい方、本当に様々な症状を抱えた方が集まります。

「根気」と、この方たちを少しでも支えたいと願う「優しさ」は臨床工学技士のみならず、医療従事者として必要でしょう。

そして最後の「鈍感さ」。

とても悲しいことですが、現在、腎臓の病気によって慢性的な透析治療を始めた患者さんは、腎臓の移植をしない限り、透析治療を止めることは出来ません。基本的には週に3日、1日4時間、生きている限り透析治療を行います。そして、腎臓の移植は、誰もが簡単に受けられるものではありません。

よって、いくら臨床工学技士として懸命に透析治療を行っても、患者さんの腎臓が回復して透析治療を不要とすることはないのです。医療従事者にとってモチベーションとなる、「患者さんが回復して元気になり、笑顔で退院していく」瞬間がなく、患者さんが亡くなって始めてその患者さんと顔を合わさなくなる、ということも、よくあることなのです。

なので、一人一人の患者さんに感情移入し過ぎると、心が辛くなり、仕事に支障を来すこともあります。

人の死に慣れることはありませんが、今治療を必要としている目の前の患者さんのために、ときには鈍感になることも必要なスキルだと感じました。

まとめ

いかがでしたでしょうか。

臨床工学技士、命のエンジニアという仕事について、少しでも興味を持ち、世の中にはこのような仕事もあるのだと知っていただけたならば、幸いです。

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