【特許事務所の仕事】商標実務担当の仕事内容について

親子三代で知的財産業界で出願から訴訟までを看板に依頼人からの信用・信頼を築いた中規模の法律特許事務所で働く商標実務担当の仕事について、1日の仕事内容や、年収、業界展望などについて解説します。特許事務所に興味のある方や新しい商品とサービス、ネーミングとの関係について興味のある方は参考にしてください。

はじめに

都内にある、中規模のY法律特許事務所にて「商標実務担当」として働く女性の仕事内容や1日の仕事の流れについてのキャリアレポートです。

「商標実務担当」とは、どんな仕事?

特許事務所の商標実務担当は、知的財産権を専門的に扱い、特許庁との手続きに関する有資格者(弁理士)の方針に従って、商標に関して専門的・実務的な仕事をします。事務的なことは、商標事務担当が行います。商標実務担当は、案件を切り盛りすることから「ファイル担当」と呼ばれることもあります。

商標実務担当の仕事内容は、出願手続きはもちろんのこと、特に重要な仕事は、主に、「期限管理」「商標調査」「オフィスアクション」「海外商標」の4つに別れています。大きな事務所や知的財産刑の民間企業の場合には、これらが別々の部署になっていることが多いです。

期限管理業務

期限管理業務とは、特許庁への書類提出の期限を管理する仕事です。

商標を特許庁に出願した場合には、概ね1年程度で特許庁から何らかの通知があります。それらには必ず期限があり、特許庁が書類を発送した日から30日又は40日以内に対応する必要が出て来ます。期限を1日でも経過すると手続出来ない場合や、特許印紙代を求められる書類は倍額納付となるので、期限管理を慎重に行う必要があります。

また、特許庁への書類提出のどこに費用が発生し、どの段階で書類を提出するのかを把握するためにも、商標実務担当は、入所して直ぐに商標の出願から登録、登録から更新までの手続のフローチャートを覚える必要があります。

何らかの通知が来たら、それらを出願人・審判請求人・申請登録人などに発送し、今後の意向について連絡します。提出期限が迫って来たら、現状を担当者、担当弁理士に確認します。

期限管理業務は、特許事務所の規模によっては商標実務担当ではなく、商標事務担当が行うこともあります。概ね、中規模以下の特許事務所では商標実務担当が商標事務担当を兼ねています。

商標調査業務

商標調査業務は、お客様から依頼された商標が、先に第三者によって出願されていないどうかを事前に調査する仕事です。通常、「先願類似調査」と呼ばれるものです。

商標は、出願後に、特許庁審査官によって、「称呼」(発音)、「観念」(イメージ)、「外観」(見た目)で先に出願されている商標と同一または似ているかどうかを審査されるため、その前に特許庁のデータや、提携している民間企業の検索システムなどによって、同一又は類似している商標がないかどうかを調査します。

この時、特にサービス業の場合は、お客様による思い込みなどから、依頼されるサービスが違っている場合があるので注意です。依頼のあった時に、丁寧に細かいヒアリングをすることがミスを避けるための秘訣です。

「依頼されるサービス」が異なる例として、お客様から依頼されたサービスが、実は、商品であるということがあります。

特許庁では、「類似商品・役務審査基準」によって商品・サービスを細かく分類していますが、その中に「広告業」というサービスがあります。あるお客様から「インターネットによる文房具の広告」をしているので、「インターネットによる広告業」について商標権を取得したい旨の依頼があったとします。

ところが、お客様と打ち合わせている間に、実は、お客様は自社で製造した文房具を販売するためにホームページに商品を掲載していると言うことが分かりました。このような場合には、サービス「インターネットによる広告業」ではなく、商品「文房具」で商標権を取得する必要があります。

今は、特許庁の商品・役務リストが特許庁ホームページで気軽に検索出来るので、お客様が検索して分類や商品・サービスを指定してくることもあるので、詳しくヒアリングした方が安全です。

また、商品やサービスが細かく区分・類似群コードに分かれていますので、調査が何件になるのか、費用がどの程度かかるのかを依頼人に伝えておくことも重要です。調査する商標が1つでも、商品やサービスが多岐にわたる場合には、膨大な費用がかかることがあります。

また、新しい商品やサービスについて記者会見での発表や、宣伝広告物としての使用などを控えている場合もあり、スピードが求められることも多いです。

尚、特許庁のデータが一般公開されるまでに約2ヶ月を要します。つまり、調査を依頼された直前の2ヶ月のデータは調査出来ません。そこで、出願後、約2ヶ月を経過した時点で、再度調査をすることもあります。

オフィスアクション業務

オフィスアクション業務は、特許庁に商標を出願した後(約10ヶ月)に発送される拒絶理由通知書、その後の審判請求で発送される拒絶査定、異議決定された案件に対し、その通知・査定を覆すための書類(意見書、審判請求書など)を作成する仕事です。

オフィスアクション業務では、先ず、特許庁からの通知・査定の内容(商標法の条文)を良く理解し、お客様(出願人・審判請求人)に書類を送付することから始まります。お客様からは、その後に取れる手続きや、拒絶理由・拒絶査定に対応した場合に成功する確率などについて説明を求められることが多いです。

お客様から反論する旨の依頼があった場合には、インターネットで必要事項を検索して資料を収集し、特許庁の審決例などを調査し、それらの資料(書証)を基に書類を作成します。お客様との打ち合わせで更にヒアリングを行い、報告書や宣伝広告物などの資料を求めることもあります。

それらの提出する書証は、書籍・雑誌の場合には、日付、出版社、奥付、該当ページの写し、インターネット検索の場合には、URLなどを添付して提出します。

その他、お客様の出願した商標又は登録された商標に対し、第三者から請求される異議申立、不使用取消審判などについても、オフィスアクションが必要です。その商標に関し、出願時に代理人になっている事務所の場合には、特許庁からの書類も特許事務所宛に発送されることが多いです。

海外商標業務

海外商標業務は、日本のお客様から海外にも商標を出願したいと頼まれることがありますが、代理権は日本の弁理士には無いため、海外の代理人との応答が中心の業務です。

海外に商標出願する際には出願依頼(オーダーレター)を作成し、FAXで現地代理人に依頼します。ある程度の英語力があれば出願依頼などの事務手続は出来ますが、国によって商標制度が異なるため、事前にある程度の各国商標制度に関する知識を備えておく必要はあります。韓国の代理人は、日本語に堪能で国際電話が掛かってくることもありますが、他の国は概ね英語で文書による対応となります。

特に大きな違いは、出願主義か、使用主義かということです。

日本は出願主義なので、出願した商標を使用していなくても同一・類似する先願商標が無ければ登録されます。しかし、使用している、又は、まもなく使用することが前提となっている国もあり、国によっては「使用宣誓書」を求められる場合もあります。大抵は、何度か期限の延長が出来ますが、費用もかかるため、出願のタイミングをお客様と相談することも重要です。

その他、マドリッドプロトコルによる出願、欧州共同体への出願(CTM出願)など、ある程度の国を一件でまとめて出願できる制度もあります。加盟国となっているかどうかなども、把握しておかなければなりません。

尚、海外への商標出願は、おおむね日本への出願の3倍程度の費用がかかるため、日本のお客様と費用面で打ち合わせておくことも重要です。

海外代理人との応答は、大抵はFAX又はメールで行われます。

「商標実務担当」の1日について

商標実務担当の1日について紹介します。

9:00 所内ミーティング (週一回)
9:20 メールチェック、海外FAXチェック、期限チェック
9:30 クライアントの報告書・特許庁提出書類などを作成
11:00 郵便チェック(依頼人の委任状など)・特許庁書類書留の受け取り(商標は月曜日のみ)
12:00 昼食休憩(60分)
13:00 特許庁との電話確認、依頼人との打合せ、書証の作成など
15:00 午後休憩(20分)
16:20 当日に特許庁に提出するための書類作成(控えコピー、押印等含む)
17:00 退所

特許事務所で働く「商標実務担当」の課題や展望・ポイント

商標実務担当として特許事務所に入所してすぐに気付くことは、指示を仰ぐ人の不在が多いということです。有資格者である弁理士は、弁理士会などの会合や、所内での弁理士達の打合せ、依頼人との会議などで事務所の出入りが激しく、遠方での裁判等の出張により事務所を一日不在することも多くあります。

商標実務担当として、ただ弁理士の指示に従って動くだけでは、作業が止まることが多くなります。また、弁理士の不在時に、お客様からの問い合わせの電話やメールなどに回答するためにも、特許庁での手続フローチャートや、よく出てくる商標法の条文を頭に入れ、スキルアップのために必要に応じて研修に参加することも必要です。

特に、小さい事務所では、商標にまつわるあらゆることが出来ることを求められるため、入所して最初の3年間は勉強しなければならない事も多く、ハードだと思います。

出願する際に、商品やサービスのどこに対価が発生するから商標として機能するのか、先願商標に類似しているのか否かについての判断が正確に出来るよう、場数を踏み、経験を積んでいくしかありません。

商標実務を担当すると新しい商品やサービスを扱うことが多いので、時間のある時にウェブサイトなどで見聞を広めておくことも有効です。お客様のホームページなどもこまめにチェックしておくと良いと思います。

知的財産業界では、結婚しても商標実務担当として働く女性は多くいますが、提出物に法定期限があり、調査は至急であることも多いため、子育てをしながら働く女性はまだまだ少ない業界です。

女性がこの業界で長く働くためには、大規模な事務所の方が担当者も複数で業務も細分化されて休みも取りやすく、時短勤務を認めているところが多いので、出産後は大規模な事務所への転職を考えても良いかもしれません。

特許事務所で働くなら弁理士資格を取得した方が待遇も良いですが、女性の場合は結婚・出産前に資格を取得しておけば、育児中にもウェブラーニングなどでの研修もあるので、ブランクがあっても職場復帰しやすいと思います。

そもそも商標とは?

商標とは、商品やサービスが誰のものであるのかを表示するための標章です。

特許事務所では、特許・実用新案・意匠・商標などの知的財産に関する手続を扱います。

上記4つのうち、商標だけは更新手続きさえすれば、ずっと存続します。

その中で、商標とは、ブランドなどのネーミングを保護することです。「グッチのバッグ」、「シャネルの香水」などと呼んでいる「グッチ」や「シャネル」は商標です。また、「初めてのアコム」などの「アコム」はサービスに付与された商標です。

また、商品との関係で権利化します。たとえば、「グッチのバッグ」なら商標「グッチ」に関し、商品「かばん」を指定して出願し、商標「アコム」はサービス「預金の受入れ」を指定して出願します。

商標については、特許庁に提出する出願・登録・更新手続や、裁判所に提出する係争事件(審決取消訴訟他)などがありますが、特許庁の手続きは、一般企業・個人などのお客様からの依頼により、事務所の弁理士が代理人として手続・管理します。

まとめ

少々、お堅いイメージの業界ですが、商標は、特許・実用新案・意匠とは違って文系でも出来る仕事です。また、知的財産系は法改正が多いため、どう変わるのかを理解する必要もあり、常に学ぼうとする姿勢は大事だと思います。

商標実務担当を含め、特許事務所員は書類の提出期限日には休めませんが、他の業界と比較すると、年に数回程度の大きな事件や至急調査の依頼などがある場合を除けば残業も少ない方で、夏期休暇は7~9月上旬の間に自由に取れます。

給与面では、特許庁での出願手続きなど弁理士の業務は、弁護士と同様に成功報酬が定められていますので、年間の事務所の業績にもよりますが、実務経験があれば商標実務担当の年収は500万円程度、時間短縮勤務で400万円前後です。

また、自分の調べた商標が世間で使われているのを目にすると、喜びを感じます。担当した商標が、特許庁審査官の審査や審判官の審理を覆して登録された時は、お客様から感謝され、達成感もあります。

お客様は、遠方の老舗のお菓子屋さん、放送局、銀行、レストラン、芸能人、アパレル業界など本当に様々です。担当する方も老若男女なので(特に最近は女性が多いです。)、学ぶことも多いです。各業界の新しい商品やサービスにいち早く触れることになるため、とても刺激になります。

商標の世界は奥深く、興味さえあれば、しっかりキャリアを積むことのできる仕事で、専門職として転職もしやすい業界です。

特許事務所で働きたい人はもちろん、ネーミングや新しいサービス・商品などに興味を持っている人には、お勧めできる仕事です。

期限管理業務とは、特許庁への書類提出の期限を管理する仕事です。

商標を特許庁に出願した場合には、概ね1年程度で特許庁から何らかの通知があります。それらには必ず期限があり、特許庁が書類を発送した日から30日又は40日以内に対応する必要が出て来ます。期限を1日でも経過すると手続出来ない場合や、特許印紙代を求められる書類は倍額納付となるので、期限管理を慎重に行う必要があります。

また、特許庁への書類提出のどこに費用が発生し、どの段階で書類を提出するのかを把握するためにも、商標実務担当は、入所して直ぐに商標の出願から登録、登録から更新までの手続のフローチャートを覚える必要があります。

何らかの通知が来たら、それらを出願人・審判請求人・申請登録人などに発送し、今後の意向について連絡します。提出期限が迫って来たら、現状を担当者、担当弁理士に確認します。

期限管理業務は、特許事務所の規模によっては商標実務担当ではなく、商標事務担当が行うこともあります。概ね、中規模以下の特許事務所では商標実務担当が商標事務担当を兼ねています。

おすすめの記事